2014年7月5日土曜日

ベルナール・アンリー・レヴィーのアンケート調査を遺作に サルコジのカダフィ空爆の謎を残してブノワ・デッケン死亡

7月4日にジューナリストのブノワ・デッケン(Benoît Duquesne56歳)氏が死亡しただわけだが、その前日の7月3日のフランス国営放送テレビA2では同氏のもち番組「Complément d'enquête」の放映があってこれがブノワ・デッケン氏の遺作となった。番組はフランスのベルナール・アンリー・レヴィー(BHL)という一般には「哲学者」だとされる人間を、そうではなくて「政治家に影響を与える人間」つまり「Un homme d'influence」だとして一応はフランス的伝統の中で知識人を捕らえ直しているが、実はサルトルやマルローにBHLをだぶらせて見せるのが目的ではないのであった。
番組の終わりにはパリのサンジェルマンはBHLも住んでいた場所であるが、そこのドラクロワ美術館のあるフルステンベルグ(Furstemberg)広場の中央の木陰の下に、いつもの赤いフォートウユを二つ並べてこれに座っての屋外対談があり、放映されたアンケートに関して話し合っている。

この作品は非常に面白く貴重なものだと思う。この番組の名前は大事で、「Complément d'enquête」というのは調査なのだが、補完的ということである。どうしてかというとその事件の調査がいまだ未知で謎に包まれているからである。その謎とはBHLにとって何であるのか?このブノワ・デッケン氏の番組では詳しくは語られてないが、そういうパズルの謎解きのような空白の大きな穴のすっぽりと開いたまだ歴史の真実が書かれてない部分を埋めようとした作品である。


それでも当時の状況を振り返れば、このベルナール・アンリー・レヴィー(BHL)がニコラ・サルコジを「反リビア政府臨時国家審議会」(CNT)に介入してリビアの独裁者カダフィを空爆してゆく状況がよくわかる。しかしこのアンケートはこれを全部はかたってない。パズルの欠損している部分を埋めようとしているのだ。

フランスの閣僚たちが2010年から2011年にかけての年末から年始にかけてのバカンスでは、「アラブ諸国の春」の民衆の胎動をよそに、ミッシェル・アイオマリ外務大臣(前内相、元防衛相)などはその同伴者のオリエ国会連絡相とともに家族を連れてチュニジアの独裁者ベンアリ大統領の国をジェット機付き豪華ホテル旅家招待族行で豪遊していた。オリエ氏は長年に渡りカダフィと一緒に20回ほども旅行をしたことを誇っている人だ。

チュニジアの民衆による革命の中でベンアリ大統領が失脚して、ひと先ずは地中海をフランスへ向かう。マグレブの独裁者たちから贈り物をもらっていたフランスの要人たちはサルコジ仏大統領も含めこれは当然だとして、独裁者からの贈り物を否定しなかった。

チュニジア人民が苦しみや怒りを爆発させている最中に、独裁者らと手を取り合って遊んでいるフランス政府の大臣らの姿は独裁者に加担している植民地主義者の構図としてフランスの多くのメディアから批判されたのである。共和国フランスの価値に照らしてとして恥ずかしいものであった。このときからレヴィーのサルコジへの接近が急速に進む。

2011年3月10日、BHLはチュニジアに乗り込み「反リビア政府臨時国家審議会」(CNT)の中心者たちを説得してサルコジのいる大統領官邸エリゼ宮を訪問させることに成功した。フランスは英国や国連を動かしてカダフィ空爆を主張した。国連投票がなされた数日後の2011年9月15日に既に地中海上をミラージュやラファル戦闘機がリビアに向かって飛んでいた。カダフィ大佐の息子のセイフ・アル-イスラムや長女のファチマはこの空爆で無実な市民が多く殺害され自分の子供を亡くしたことを訴えた。フランスのパイロットには妻や子供がいないのだろうかとサルコジ前大統領の空爆を批判して、彼女はフランス国営放送テレビA2の現地インタヴューで訴えている。

謎はベルナール・アンリー・レヴィーにとって、なぜサルコジ前大統領が空爆をそんなに執拗に迫っていたのか?なぜ爆撃が必要であったのか?どうしてそれを決めたのか?ということだ。しかし、一般にはリビア空爆はこの二人で決められたとされているわけで、これとはニュアンスが異なるのである。しかしリビア空爆は実際にあったことは隠せないし否定できないことだ。

すこし付け加えると、このデスケネ氏のアンケート調査の意義だが、それは最近になって政治の真実を追うネット・新聞「メディアパー」が暴露した2007年のサルコジの大統領選挙運動での資金がリビアの独裁者カダフィから流れていたというムサカ文書が出てきたからだ。もう一つはモナコ王室やサルコジの前妻セシリア・アチアスの現夫の弁護士事務所から、リビアのカダフィからの資金送金をにおわせるヘッドのない不思議な文書が偶然に発見されたりしているからかもしれない。

このブノワ・デッケン氏のアンケート調査の内容を対象にされたベルナール・アンリー・レヴィー自身も認めていることをデスケネ氏に最後に語っている。しかし謎は相変わらず空白で埋まっていはいない。彼は、どうしてだかわからない。どうしてサルコジ前大統領がリビアのカダフィ空爆を行ったのか?と今も以前と同じことを語っているからだ。

この番組のアンケート調査の価値はここにあるといってよいだろう。この謎を残しながらブノワ・デスケネ氏は2014年7月4日にパリの西郊外を流れるセーヌ河畔の改造船の自宅で死亡しているのが見つかった。心臓麻痺だとされている。

【関連記事】 【参考記事】

Complément d'enquête du jeudi 3 juillet 2014

http://www.francetvinfo.fr/replay-magazine/france-2/complement-d-enquete/complement-d-enquete-du-jeudi-3-juillet-2014_633219.html