2011年3月4日金曜日

サルコジ大統領、イスラム寺院の影響残るピュイ・アン・ヴエレー教会訪問で、フランス・キリスト教の遺産擁護を警鐘

3月3日フランスのサルコジ大統領は、5世紀のロマネスク建築であるピュイ・アン・ヴエレー教会を訪問した。コンポステールへの巡礼の出発点の一つであるこの地を訪問し「キリスト教がフランスの文化と文明の根である」と主張した。そこには、イスラムをフランスから乖離させるサルコジ氏の主張が裏にあると見られるが、皮肉にもサルコジ氏が訪問したピュイの教会とはイスラム建築からきたクーポール(円蓋)や色が交互に付いたアーチの迫石(せりいし)だの、オートルパッセ(馬蹄形)アーチなどそのイスラム文化遺産からの影響が深く残ったキリスト教の5世紀ロマネスク教会でもあったのだ。

ピュイ・アン・ヴエレー教会にはイスラム建築の影響が多く見られるしローマ文化の影響もある。一般にロマネスク教会はバラエティに富み多様で寛容性があるといえる。サルコジ大統領のようなフランスの文化の根はキリスト教という一元的で排他的なものではないようだ。ピュイ・アン・ヴエレーの教会を訪問していながら残念な大統領の発言であった。

サルコジ大統領はフランス共和国の基幹をなすライシテ(政教分離)に論議の火をつけて見たいと考えている。そこで、キリスト教の文化的遺産がそのままフランスを意味するものと考えての上述の発言であったようだ。

フランスでは少数派だと自称するキリスト教徒の民主運動(モデム)のフランソワ・バイル議長が指摘していることだが、キリスト教はフランスの根の一つではあるがそれだけではなくて、イスラムやビザンチン文化や古代ローマの影響も根となっているということだ。

しかしサルコジ氏はカトリック教会がフランス人のアイデェンティティー・ナショナル( l’identité nationale国民の同一性 )」を形成する遺産だと見ている。

もしキリスト教性だけがフランス人の国民性と同一性を持つとなれば、これはフランス憲法のライシテ思想に完全に反するものとなり危険な考えになる。国家が一つの特定な宗教を特別視することを憲法のライシテ法は否定しているからである。それですでにこの傾向が見られるサルコジ大統領の考え方には多くの注視と反対が起きているわけだ。

チュニジアやエジプトを初めとするイスラム・アラブ世界での革命が勃発して、イスラム教徒の移民がヨーロッパ世界へ大量不法侵入してくることをフランス国民が恐れている。この恐怖を意識的に利用することで来年2012年の大統領選挙でのフランス国民の保守化・右傾化を狙っていると考えられる。

これを標的にした論議がサルコジ大統領のピュイ・アン・ヴエレー教会での発言、つまり「キリスト教がフランスの文化と文明の根である」とするフランス人のアイデェンティティー・ナショナル論議の復活であって、アラブの脅威の反動の中で説得力を持たせようとしていることでさらに危険視されている。

サルコジ氏の考えているような、キリスト教性だけをフランスの遺産と結びつけて考えようとする「フランス国民の同一性論議」は危険である。

イスラムなど他の様々な文明の思想・文化が影響し合って現在のフランスの多様性ができていることを認識しなおすべきだろう。